斜めにペアで配置された粘性ダンパーの合力について考察してみた

早速ですが、下図のように粘性ダンパーを斜めにペアで配置したことはありますでしょうか。

上記のように粘性ダンパーを配置した時の合力の、大きさや向きについて直観とは異なる興味深い結果が得られましたので、ここで紹介してみたいと思います。
今回は、あくまで合力に対してのみ考察するため、pythonで計算した結果を示しています。
ソースコードは下記のGitHubを参照ください。
Pythonソースコード(GitHub)

図の赤色で示された部分がダンパーに対応しています。

オイルダンパーと粘性ダンパー

比較のために以下のようにオイルダンパーと粘性ダンパーを用意してみます。

オイルダンパー 粘性ダンパー
C(減衰係数) $$ 0.8 kN \cdot (sec/mm) $$ $$ 20.0 kN \cdot (sec/mm)^{-\alpha} $$
\(\alpha\) $$1.0$$ $$0.5$$
減衰力 $$ F=CV $$ $$ F=CV^{\alpha} $$

オイルダンパーと粘性ダンパーの最大の違いは減衰力にあります。
オイルダンパーの減衰力は速度に対して線形な関係であるのに対し、粘性ダンパーの減衰力は速度に対して非線形になります。

ダンパーの合力

では早速ダンパーの合力について調べてみます。
入力速度650mm/sが各方向に入力されたときのダンパーの合力をプロットした図を下図に示します。

オイルダンパーが円形のグラフになっているのに対して、粘性ダンパーは花柄のようなグラフになっています。このことから、粘性ダンパーを組み合わせると全方向に等しい減衰力ではなく、方向に対して指向性を持つことが分かります。

減衰力の作用方向

減衰力の作用方向はどうでしょうか。下図に二つの図を示します。系に入力される速度ベクトルの「角度」を変化させた時の合力ベクトルと、速度ベクトルの角度が30度の時の様子を取り出した図になります。
オイルダンパーと比較して、粘性ダンパーでは、速度ベクトルと合力ベクトルの方向が一致しない場合があることが分かります。また、べき乗ダンパーの合力の方が角度が浅くなる傾向にあるようです。

同じ大きさの速度ベクトルを5度ずつ変化させた時の、減衰力の合力ベクトル

30度方向に速度ベクトルを入力した時の、減衰力の合力ベクトル

考察

考察してみますと、オイルダンパーと比較して粘性ダンパーは小さい速度領域で大きな力を発生させることができる点が今回ご紹介したような挙動に繋がっていると分かります。

例えばオイルダンパーの場合の、合力ベクトルを求める流れを下図に示しました。オイルダンパーの場合、速度と減衰力は線形の関係にあるため、合力ベクトルは速度ベクトルと同じ方向を示します。

一方で、粘性ダンパーの場合、小さい速度領域でも大きな減衰力を発生することから、合力ベクトルの方向と速度ベクトルの方向が一致しなくなり、また合力ベクトルが「寝やすく」なると考えられます。

このことから、減衰乗数\(\alpha\)を大きくした時の様子を考察してみます。\(\alpha\)を大きくすると、小さな速度領域で効きにくくなり、大きな速度領域で効きやすくなることになります。つまり、「ダンパーの配置方向に対してはよく効くが、配置外方向にはあまり効かない」結果になるはずです。

粘性ダンパーの係数を入れ替えて実際にプロットしてみます。

オイルダンパー 粘性ダンパー2
C(減衰係数) $$ 0.8 kN \cdot (sec/mm) $$ $$ 0.001 kN \cdot (sec/mm)^{-\alpha} $$
\(\alpha\) $$1.0$$ $$1.2$$
減衰力 $$ F=CV $$ $$ F=CV^{\alpha} $$

ダンパーの合力

同じ大きさの速度ベクトルを5度ずつ変化させた時の、減衰力の合力ベクトル

30度方向に速度ベクトルを入力した時の、減衰力の合力ベクトル

予想通りの結果が得られました。減衰力の合力ベクトルが四角形になるのは興味深いですね。配置方向(±45度方向)にはよく効く系になります。

まとめ

今回は、ダンパーを組み合わせた場合の合力ベクトルの大きさや方向について、オイルダンパーと粘性ダンパーの挙動を比較し、意外にも面白いグラフが得られました。考察として、粘性ダンパーが小さな速度領域でもよく効くことで、合力の方向が変化することを確認できました。今回、組み合わせたダンパーの角度は45度ずつでしたが、これを変化させた時にどのように変化するか、考察すると面白いかもしれません。
今回使用したコードはGitHubに公開しています。よろしければ参照ください。
Pythonソースコード(GitHub)
 

 

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