免震層の上下大梁が受ける付加モーメント
免震層の上下大梁には支承材に生じるせん断力やP-δ効果によって付加モーメントが発生するため、その影響も考慮して断面検定を行う必要があります。 一般的には水平方向に生じるせん断力に対応したモーメント(以下、Q-hモーメント)と、大きく変形することによる幾何剛性の影響による付加モーメント(以下、P-δモーメント)の2つについて考慮する必要があります。免震部材による付加モーメントの考え方の一例
簡単な形状であれば、クライテリアとして設定している免震層変形が生じた際に、どの程度の付加モーメントが発生するか手計算で算出することは容易です。しかしながら、プログラムとして対応しようとすると複雑な形状にも配慮する必要があり、いろいろと難しいことがでてきます。 本記事では、RESP-Dで免震層上下大梁検討における付加モーメント計算機能を実装したときの考えや工夫について取り上げます。また、初期の機能追加時からユーザ様の本機能に対する需要が着実に増えており、様々なご意見をいただきながら成長しておりますので、その成長の変遷をここで記したいと思います。基本方針
まず基本方針としては以下のように考えました。- 支承材ごとの付加モーメントを計算し、その支承材に接続する大梁に剛性見合い(EI/L)で分配する
- P-δについてはすべての加力方向について各水平荷重ケースの軸力を用いて計算する
片持ち梁問題
まず最初は、単純に基本方針に基づき実装しました。すると、ユーザー様から以下のような指摘を受けました。モデル化上仕方なく大梁としてモデル化している片持ち梁に付加モーメントが分配されて困っています。指摘されていたのは下記のような梁です。確かに、EI/Lにより分配するとこのような問題が生じますが、実際には応力をそこまで分配するとは考えにくい梁です。 対策として、最初は自動判別する機能をつけようと試行錯誤しましたが、最終的には「付加モーメントを負担させない」という指定を大梁ごとにできるようにして対応しました。
加力直交方向大梁が厳しすぎる問題
次に以下のような指摘がありました。大梁のP-δ付加モーメントが不当に大きすぎます。加力方向からしてそれほど大きな圧縮軸力が生じないはずなので、不自然です。RESP-Dの仕様上、 P-δ付加モーメント計算用の変形はユーザー入力値となっていますが、加力方向にかかわらずこの入力値に対して軸力を乗じて付加モーメントを計算していることが原因でした。 例えば、下図のような板状マンションの場合、Y方向加力時にはX方向の大梁が付加モーメントを大きく負担することはないはずです。しかしながら、Y方向加力時に作用する大きな圧縮力に対してP-δ付加モーメントを計算し、それを採用していたため本来は生じえない付加モーメントを考慮してしまっていました。
「Y方向加力ではY方向の大梁だけを対象にすればよいのでは?」というのは誰もが最初に考えることだと思います。しかし、RESP-Dでは加力方向を0°、90°だけではなく、斜め方向にも設定できます。さらには形状としても斜めに大梁を配置することも可能です。そのため、どの荷重ケースで大梁の応力が最大になるかわかりません。そのような背景から、梁の方向によらずすべての加力ケースで最大となる応力を採用するようにしていました。 そこで、水平荷重時の解析結果を用いて、支承材の変形方向と大梁の角度によって下図に示すような角度補正係数を乗じるように仕様を変更しました。この処理により、Y方向加力時にはX方向の大梁にとりつく支承材は通常X方向に変形しないため、上記のような不自然に大きな付加モーメントは生じなくなりました。
まとめ
上記のような状況を踏まえ、現在は以下のような流れで付加モーメントを計算しています。- 大梁に取りつく支承材ごとに付加モーメントを計算する
- 支承材に取りつく大梁ごとに、付加モーメントをEI/Lと支承材変形方向による補正を考慮した剛性比で分配する
- その際、分配対象から除外する指定がされている大梁があれば除外する