柱軸変形の考慮と施工段階解析

「鉛直荷重時の軸変形は考慮してる?」

新人構造設計者が先輩に聞かれて戸惑う質問の代表的なものではないかと思います。
実際、この文言からだけでは意味するところを読み取るのは非常に難しいと思います。

インターネットで「軸変形の考慮」で検索してみると、
上位に以下の記事がヒットしました。
【まちの構造屋さん】柱の軸方向変形の考慮がよくわからない

上記の記事では軸変形の考慮についてわかりやすく説明されており、RC規準2010の中の関連記述についても触れています。
上記の記事からそのまま引用しますと、以下のように記載があるようです。

柱部材では、一般にRC造建物は1層ずつ打設され、躯体重量に対する軸方向変形は、1層ずつ不陸を修正しつつ施工されるので、長期荷重に対する解析では、軸方向力による変形を無視することができる。一方、水平荷重に対する解析では、……

要は実際の施工を考えると1層ずつ打設されるため、1層ずつ不陸が調整されていくことから、軸変形を考慮して解析モデル全体に一気に載荷するのとでは状況が違う場合があり、
軸変形を考慮しないほうが実現象に近い、という趣旨のようです。

一方、この1層ずつ部材生成、載荷を繰り返すような現象を解析的に行うのが、施工段階解析と呼ばれるものです。

施工段階解析のイメージ

つまり、結果的には施工段階解析は軸変形考慮ありとなしの間に位置づけられるような解析になります。
施工段階解析は簡単には行えない場合が多いので、実際の設計ではどちらかといえば軸変形考慮ありよりか、軸変形考慮なしよりかを考えることになると思います。
軸変形考慮なしと施工段階解析の差異は、軸変形考慮なしはすべての軸変形を無視するのに対し、施工段階解析では当該層に作用する荷重による軸変形分は考慮する点です。
したがって、当該層だけの荷重による軸変形が十分小さければ軸変形考慮なしと近い結果になると予想されます。

実際に4層2スパンのRC建物モデルを作成して解析を行ってみました。

RC 4層2スパンモデル

以下に鉛直荷重時の応力図を示します。

軸変形考慮あり

軸変形考慮なし

施工段階解析

結果を見ると、今回の結果では施工段階解析の結果は軸変形考慮なしに近いことが確認できました。
各層ごとに荷重をかけていった場合の軸変形がそれほど大きくなかったためと思われます。

階の柱剛性差が大きい場合

RC規準においては、柱の軸剛性差が大きい場合の軸変形の影響について言及されています。
試検討として、試しに1F中柱のみ剛性を1/10にしてどのような傾向となるか確認してみました。

軸変形考慮あり

軸変形考慮なし

施工段階解析

今度はどちらかといえば、軸変形考慮あり≒施工段階解析となりました。
当然といえば当然ですが、当該層の荷重のみでも変形差が生じることが想定される場合には、軸変形は考慮すべきという結果となりました。

まとめ

今回は柱軸変形の考慮について理解を深めるための簡単な検討を行い、以下の傾向がわかりました。

  • 柱剛性差がない均一な建物では、軸変形考慮なしのほうが実状に近いと思われる。
  • 階の中で柱軸剛性差が大きい場合には、軸変形の影響を考慮したほうが実状に近いと思われる。

実際の建物はより複雑で、軸変形考慮なしに傾向が近い部分や軸変形考慮ありとして計算すべき部分が混在することが考えられます。
そういった場合には、施工段階解析という手段が有効に活用できるのではないでしょうか。

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