マルチシアスプリングと摩擦ばね
免震支承材をモデル化する際、立体解析の場合には2方向せん断を受けることを想定する必要があります。天然ゴム系積層ゴムのような線形要素の場合はX方向とY方向のばねを配置すれば問題ありませんが、非線形性がある場合には2本のばねで表現すると45°加力の場合に耐力が過大に評価されるという問題があります。そこで考え出されたのが、ばねを放射上に配置することで方向による耐力の違いを小さくするという考えに基づいた、マルチシアスプリングという要素になります。
一方、すべり支承のような摩擦現象を考える場合には、要素が滑り出している状態では方向によらず全方向に対して剛性がなくなった状態であると考えられます。マルチシアスプリングではばねを放射上に分散させることにより方向依存性を小さくしていますが、たとえば0°方向にのみ変形が生じて降伏に達している場合でも、90°方向のばねはまだ初期剛性状態ということになり、上記の仮定とは異なります。これに対して、要素に生じる力をベクトルで考え、滑り出し荷重を超えた場合には全方向で剛性を低下させるのが摩擦ばねという要素です。
今回はこれらの要素でどのように2方向のせん断力が変化するか、X,Y方向同時加振を行って比較してみました。
解析モデル
モデルはRESP-Dで基礎免震として作成しました。RESP-Dでは転がり支承をマルチシアスプリング、すべり支承を摩擦ばねでモデル化しています。今回はそれらを用いたうえで、マルチシアスプリングの本数を変えた場合についても確認しました。
解析結果
マルチシアスプリング2本
まずはマルチシアスプリング2本です。横軸にX方向せん断力、縦軸にY方向せん断力をプロットしたグラフを示します。履歴は四角形の耐力線となっており、45°方向では耐力が上昇しています。CLBは直交するレールで構成されており方向性があることからRESP-Dでは2本として表現しています。
マルチシアスプリング4本
4本とした場合です。少し円に近づきました。
マルチシアスプリング8本
8本です。ほとんど円です。ただし、ほかの本数も同様ですが、ばねを放射状に分散させているだけでそれぞれのばねの連成効果はないため、変形のタイミング次第で耐力線は円にならず一部はみ出しています。
摩擦ばね
摩擦ばねの場合です。摩擦ばねはせん断力をベクトルとして考えて滑り出し荷重を超えた時点で滑るようなモデルとなっているため、きれいに耐力線が円を描いています。
まとめ
- マルチシアスプリングは本数を増やすと耐力の方向依存性が小さくなる。
- 摩擦ばねは厳密に合力として滑りを評価するが、マルチシアスプリングは独立した複数のばねで表現するため耐力線がきれいな円にならない。