STAN/3Dは、当社が市販する構造解析ソフトウェアとしては最も古い商品で、現在につながる系統の初版は1980年代に大型計算機向けに開発されたものです。PC向けバージョンとしては、PC-9801シリーズのMS-DOS版が1990年にリリースされました。その後Windows版の第1版をリリースした後、2002年の第7版以降は計算コアを一新してRESP-DやRESP-F3Tとほぼ共通となり、2013年以降はRESPと同じグループで担当しております。
そんな訳で今やRESPシリーズとは兄弟姉妹のSTAN/3Dですが、RESPと違って普通の設計を支える道具としての大きな特徴があります。それは、静的解析ならではの不安定対応です。
STANのようなマトリクス法のプログラムについては、良い教科書が数冊出版されていますので、ご自身でプログラムを作成された経験をお持ちの方も少なく無いと思います。教科書で解説されるプログラムと市販品の大きな違いは、うまく解けない(入力ミスによる不安定や構造上の問題のため一部に不安定がある)場合の対処方法だと思います。問題の無い入力データが素早く解けるのは当然として、問題のある入力データの場合に、利用者に対して如何に素早く問題解決の糸口を気付かせるか、が重要な課題になります。
たとえば、下図のように水平梁1本の中央載荷モデルを解くつもりで、両端支点条件の入力を忘れて(宙に浮いた梁として)計算をしてしまった場合に、一言「エラー:構造不安定」と表示されるのでは、どのような問題が生じているのか直ぐに気づかない場合があると思います。
まずSTANでは、結果リストに下枠内のようにメッセージが出力されます。このメッセージの意味する旨は「不安定かもしれない自由度(変形の方向成分)を見つけたので仮に支持してみます」という情報で、計6件出力されます。この6件は、安定化するまで仮の支持条件を増やした結果、6自由度を拘束(固定化)する必要があったという意味で、結果的に片持ち梁になっています。その後、その仮の片持ち梁で解いてみた所、仮に設けた支持点に対して反力が発生してしまいましたので、これは本当に不安定構造物だという判定がなされ、末尾2行のエラー(仮に設けた支点に鉛直方向反力と曲げモーメントが発生してしまったので不安定だ)が出力されます。同時に警告として、不安定に関連する自由度には偽変位を与えていますということで、鉛直方向と曲げモーメントが発生する回転方向に不安定を示す偽の変位を与えるという意味の出力です。
偽の変形を出力する理由は、下図の変形図のように宙ぶらりんになった梁の変形状態を表示するためです。この図を見れば、大抵の利用者に「支点を設定するのを忘れていた」と気づいてもらえるはずです。
また、なぜわざわざ内部的に仮の支点を設けて安定状態を作成するのかと言えば、下図のように力が釣り合っているような状態で結果を出すための工夫です。構造的には不安定ですが、外力が釣り合っているためにどこかに飛んで行ってしまうわけではなく、梁に発生する応力は確定できます。
STANが仮に設けた支点には反力が発生しませんので、仮に設けた支点(左端節点)の変形をゼロとして下図のように変形図を出力します。
さらに部材荷重に対する曲げモーメント分布を下図のように出力することも可能です。
今回の例のように梁要素1本ではSTANの不安定対応のご利益はあまり実感できませんが、複雑な構造物の一部が不安定になっていたとか、一部が回転に対しては止まっていなかったというような場合に威力を発揮するのではないかと思います。もし、STANをご利用の際に不安定のエラーメッセージが出力される場合には、上記を思い出して出力を眺めてみていただくと、素早く解決の糸口がつかめるのではないかと思います。
また、引張専用トラス、圧縮専用ばねなど、ある種の非線形要素を使用した場合に、左右対称モデルなのに、変形が非対称になっている。など、思惑とは違う結果になった際には、一度、引張専用、圧縮専用を一般部材に置き換えて解析実行をお試しください。非線形解析の場合、不安定の判断方法が変わり、情報を出力しなくなります。一般部材に置き換えて解析を実行することで「情報」が表示されますので、特に並進方向を拘束している節点周りにご注目いただくと、それを頼りにデータの修正部分を特定できると思います。