何となく意味は知っているけど・・・(パート2)

以前、刺激係数の記事を作成しましたが、今回はその記事の有効質量版です。刺激係数と同様に固有値解析結果でよく見るのに、何となく「この値が大きいとそのモードの影響が大きいんだ」と判断する値であると思います。そもそもどのように計算するのか、どんな意味を持つ値なのか、どうすると大きくなるかなどを私がプログラムを作る過程で理解した観点を紹介します。
刺激係数の記事を読んでからこの記事を読むと理解がスムーズかと思いますのでぜひ読んでみてください。

モード質量について

まずは、「モード質量」を説明します。
以前から四方山話シリーズで何回か出ていますが、質量マトリクスの前後から固有ベクトル\( \lbrace u_{s} \rbrace \)を掛けた次の \( m_{s} \) をs次の「モード質量」と言います。

$$\scriptsize{m_{s} = \{u_{s}\}^{T} [M] \{u_{s}\}}$$

これは、その固有ベクトルで振動する時の等価一自由度の質量を表します。
「モード質量」は固有ベクトルの基準化によって値が変動するので確定値ではありません。

有効質量の計算方法

次に有効質量の計算方法について記載します。 s次の有効質量は次の式で求めます。

$$
\scriptsize{
{\bar{M}}_{s}= \frac{( \{u_{s}\}^{T} [M] \{1\} )^2}{\{u_{s}\}^{T} [M] \{u_{s}\}}= \frac{( \{u_{s}\}^{T} [M] \{1\} )^2}{m_s}
}
$$

\( \lbrace 1 \rbrace \)は地動加速度分布ベクトルです。地動加速度分布ベクトルは大きさが振動系の全自由度で、加振方向と同じ自由度の項の値が全て1となるベクトルです※前回の記事に詳しく書いてあります。
地動加速度分布は振動自由度の方向だけ考えられるので、刺激係数と同じく有効質量もX、Y、Z、θx、θy、θzの6方向に対して存在します。
有効質量はモード質量とは違い固有ベクトルの基準化の影響を受けない確定値です。

有効質量比について

有効質量が大きければそのモードは主要なモードと言えますが、その値だけ見せられても影響が大きいか判断できず困ると思います。なので全体の質量の中でどのくらいの割合であるかの、「有効質量比」という値を見ることの方が多いと思います。

$$
\scriptsize{
{\bar{R}}_{s}= \frac{{\bar{M}}_{s}}{\{1\}^{T} [M] \{1\}}
}
$$

この分母が「ある方向の振動自由度の質量の総和」となります。全ての次数の有効質量を足し合わせると分母の「ある方向の振動自由度の質量の総和」と一致するので、全次数の有効質量比を足し合わせると1.0(100%)となります。 この過程を数式で説明します。
まず、地動加速度分布ベクトルは全モードの刺激関数の足し合わせで表現できます。

$$
\scriptsize{
\{1\} =\beta_{1} \{u_{1}\} + \beta_{2} \{u_{2}\} + \cdots + \beta_{n} \{u_{n}\} = \sum_{i=1}^{n}\beta_{i} \{u_{i}\}
}
$$

この関係を使って、「ある方向の振動自由度の質量の総和」を展開します。

$$
\scriptsize{
\begin{aligned}\\
\{1\}^{T} [M] \{1\} &= \left[\begin{array}{cc}
\beta_{1} \{u_{1}\}^{T} +\beta_{2} \{u_{2}\}^{T} +\cdots +
\beta_{n} \{u_{n}\}^{T}
\end{array}\right] [M] \left[\begin{array}{cc}
\beta_{1} \{u_{1}\} + \beta_{2} \{u_{2}\} + \cdots + \beta_{n} \{u_{n}\}
\end{array}\right] \\\ \\
&=
\beta_{1} \{u_{1}\}^{T} [M] \beta_{1} \{u_{1}\} \hspace{3pt}+ \hspace{3pt} \beta_{2} \{u_{2}\}^{T} [M] \beta_{2} \{u_{2}\} \hspace{3pt}+ \hspace{3pt} \cdots \hspace{3pt}+ \hspace{3pt}\beta_{n} \{u_{n}\}^{T} [M] \beta_{n} \{u_{n}\}\\\ \\
\end{aligned}
}
$$

M直交性により、\( {u_{i}}^{T} [M] {u_{j}} = 0 (i \neq j ) \)なので2行目のようにまとめることができます。
次に刺激係数は次の様に表せます。

$$
\scriptsize{
\beta_{i}= \frac{ \{u_{i}\}^{T} [M] \{1\}}{\{u_{i}\}^{T} [M] \{u_{i}\}} = \frac{ \{u_{i}\}^{T} [M] \{1\}}{m_i}
}
$$

よって式は次の様になり、4行の各項はs次の有効質量であるため、有効質量の総和はある方向の振動自由度の質量の総和となります。

$$
\scriptsize{
\begin{align*} \{1\}^{T} [M] \{1\}
&= \beta_{1} \{u_{1}\}^{T} [M] \beta_{1} \{u_{1}\}&&+ \beta_{2} \{u_{2}\}^{T} [M] \beta_{2} \{u_{2}\} &&+\phantom{{}+{}+{}} \cdots &&+ \beta_{n} \{u_{n}\}^{T} [M] \beta_{n} \{u_{n}\}\\ \\
&= {\beta_{1}}^{2} \{u_{1}\}^{T} [M] \{u_{1}\}&&+ {\beta_{2}}^{2} \{u_{2}\}^{T} [M] \{u_{2}\} &&+\phantom{{}+{}+{}} \cdots &&+ {\beta_{n}}^{2} \{u_{n}\}^{T} [M] \{u_{n}\}\\ \\
&= \phantom{{}+{}+{}} {\beta_{1}}^{2} m_{1} &&+ \phantom{{}+{}+{}} {\beta_{2}}^{2} m_{2} &&+\phantom{{}+{}+{}} \cdots &&+ \phantom{{}+{}+{}} {\beta_{n}}^{2} m_{n}\\ \\
&= \frac{( \{u_{1}\}^{T} [M] \{1\} )^2}{m_1} &&+ \frac{( \{u_{2}\}^{T} [M] \{1\} )^2}{m_2} &&+\phantom{{}+{}+{}} \cdots &&+ \frac{( \{u_{n}\}^{T} [M] \{1\} )^2}{m_n} \end{align*}
}
$$

1行目→2行目:スカラー値である刺激係数をまとめて2乗の形にする
2行目→3行目:モード質量で表現する
3行目→4行目:刺激係数を前掲の表現に変えて、モード質量を約分する

特別な名前が付いた「モード質量」

先ほど「モード質量」は固有ベクトルの基準化に影響するので確定値ではないと書きましたが、意図のある基準化をした場合に特別な名前で呼ばれます。例えば、「有効質量」や「一般化質量」が該当します。「有効質量」は先ほどの式中の1行目を見ると「刺激係数でスカラー倍した固有ベクトル(刺激関数)のモード質量」となっています。
このことから「有効質量」は「刺激関数で振動する時のモード質量」と表現している書籍もあります。
振動制御の分野で最適同調の設計に使う「一般化質量」は制御対象とする自由度を1.0に基準化した「モード質量」となっています。

有効質量比からわかること

前述の通り、有効質量比は「ある次数のある振動自由度の有効質量」と「着目している振動自由度の質量の全体」の比であります。ではどうなると大きくなるのでしょうか。
答えの一つとしては、「固有ベクトルがどのくらいその方向の地動加速度分布ベクトルに近いか」というところです。地動加速度分布ベクトルは地表面に加速度が発生した時に建物の各質量に作用するということを数式的に表現しています。有効質量の計算にもこの地動加速度分布ベクトルが入っています。
例えば、固有ベクトルが地動加速度分布ベクトルそのものだった場合を考えます。この場合は有効質量がその振動自由度の質量の全体そのものになります。有効質量比100%で、これが最大値となります。

閑話 ー 有効質量は刺激係数の2乗?

ある文章で「有効質量は刺激係数の2乗」という記載を見たことがあります。この記載自体はある意味間違っていませんが、前提条件を記載しないと混乱すると思います。
固有ベクトルの基準化の方法として「モード質量を1.0にする」という方法があります。最後に挙げた式の3行目の式に\(m_s=1.0\)を代入すると確かに刺激係数の2乗が有効質量となります。
正しくは「有効質量はモード質量×刺激係数の2乗」となるのです。

まとめ

今回は有効質量、有効質量比の基本的な計算方法を記載しました。
「固有ベクトルがどのくらいその方向の地動加速度分布ベクトルに近いか」という部分を深堀してみます。

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