木造壁には土塗壁、木ずり、格子壁、すじかい系、面材系などがあり、これらをどのようにモデル化すれば良いか迷うことはないでしょうか。
ここでは、一般的によく使われている「壁倍率」から壁剛性を求めて、ブレースと壁エレメントの2種類でSTANに入力する方法をご紹介します。

壁剛性(Kw)

壁倍率が与えられた耐力壁は、一般的に下式により短期許容せん断耐力Paを算出します。
Pa=壁倍率×壁長(m)×1.96(kN/m)
このような耐力壁の壁剛性Kwは、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計1(2017年版)」では、短期許容せん断耐力に比例するものとして、特定変形時の耐力(短期許容せん断耐力)と特定変形時の変形量から剛性を求める方法が示されています。特定変形時とは、筋かい・面材張り耐力壁等では1/150(rad)、木ずり壁、土壁等では1/120(rad)となります。

例題
壁高さ(H):3200mm 壁長さ(L):910mm 壁倍率:7倍相当である面材壁の剛性(kN/mm)を求めます。
短期許容せん断耐力:壁倍率×基準耐力×壁長さ
=7.0×1.96×(910/1000)=12.4852(kN)
特定変形時変形量:壁高さ×変形角=3200×1/150=21.33(mm)
壁剛性(Kw):耐力/変形量=12.4852/21.33=0.585 (kN/mm)

ブレースで入力する場合の断面積

Ki(中層大規模木造研究会/設計支援情報データベース)の掲載資料「大壁:面材耐力壁のデータシートの注意点」には、以下のように記載されています。

これを参考し、等価たすきブレースに置換します。
cosθ=L/√(H^2+L^2)=0.2735
EA=Kw・L/2・cos^3θ=0.585×910/2×(0.2735)^3=13011.7
弾性係数(E):仮に鋼材の値 205kN/mm2とすると
A=13011.7/205=63.472(mm2) となります。

壁エレメントで入力する場合の板厚

STANの壁エレメントを入力する場合に必要な板厚(t)を、せん断変形用断面積(As)から求めます。

せん断変形用断面積(As)

荷重Pを載荷した場合のせん断変形(δ)は、
δ=P・H/G・As
δ=P/Kw これらを等値すると、As=Kw・H/G となります。
壁のせん断剛性(G):仮にスギ集成材の値 0.433333kN/mm2 とすると
As=0.585×3200/0.433333=4322(mm2) となります。

この値と壁長さ(L)から仮定壁厚(t)を算出し、壁エレメントデータで入力します。

As=L×t t=As/L=4321.80/910=4.7492(mm)

せん断剛性係数(βs)

せん断変形用断面積はAs=L×tの値になりますので、壁エレメント入力画面のP2:せん断剛性係数は1.0を入力します。

軸剛性係数(βa)

軸変形用断面積もA=L×tの値になりますが、壁はせん断力のみを負担し、軸力は負担しないものとするため、壁エレメント入力画面のP3:軸剛性係数には0.0000001を入力します。

曲げ剛性係数(βm)

断面二次モーメントはI=t×L^3/12で計算され、曲げ変形を考慮しますが、ブレース置換と同等の解析を行う場合、曲げ変形が発生しないように剛性をあげる必要があるため、壁エレメント入力画面のP4:曲げ剛性係数には1000を入力します。

結果比較

上記設定を行った解析結果を比較します。

 

ほぼ同等の結果が得られました。

壁の断面算定として短期許容せん断耐力と比較をしますが、ブレースで入力した場合、ブレースの軸力を水平力に変換しなければなりません。
2×軸力×cosθ=2×22.822×0.2735=12.485(kN)

壁エレメントの場合、壁のせん断力が結果出力されますので、その値と短期許容せん断耐力との比較になりますので、便利だと思います。

今後はSTANの木造断面算定オプションに耐力壁の断面算定機能を追加できるよう、検討していきます。

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今回使用したソフト STAN

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