RESP-Dでモデルを作る際に、節点を剛床に含める・解除するという操作があります。剛床とは、床の剛性が高いために面内変形をせずに一体として変形することを表現します。この記事を書いている私は先日、剛床仮定が成立しない物件の解析をしたのですが、RESP-D を使う上でこのあたりが文字と言葉で説明されているといいのになと思ったことがいくつかあったため、本記事にまとめます。
本記事では、”階”・”層”という単語が頻出しますが、以下の軸組イメージ図の通り定義します。

また、本記事では、「構造計算ソフト RESP-D における剛床」について記載します。Web検索で上位にヒットする剛床工法とは別物ですので、RESP-Dでモデル作成・解析をする際の頭でお読みいただくと混乱が少ないと思います。
階のねじれを把握する際には剛床が前提となる
建築物の構造関係技術基準解説書(いわゆる、黄色本)では、剛性率の計算の際には各階が剛床であることを想定した数値を採用すること、偏心率は剛床仮定に基づいてねじれ振動のしやすさを評価すること、の記載があります。いずれの記載からも、”剛床”であることが剛性率・偏心率の計算の前提であることや、剛床仮定が各階の”ねじれ”を把握するための前提であることがわかります。
剛床とねじれの関係を視覚的に把握したいので、RESP-Dで簡易なモデルを作って固有値解析を行いました。同一モデルで、最上層の節点を全て剛床に含めて拘束したものと、最上層の節点を全て剛床解除したものを比較します。図に示す通り、剛床の場合(左)には層全体がねじれるようなモードが確認できるのですが、剛床解除した場合(右)は、各節点が拘束されずばらばらに挙動するため、層全体が一体となってねじれるモードは発生しなくなります。

RESP-Dの「剛床」とはどんな設定か
RESP-Dでは、冒頭の図に示したような階層構造を持った建物を想定しており、各フロアレベルにおいて剛床仮定を適用する機能を備えています。
剛床仮定が成立するかどうかについては世の中に沢山の情報があるので、ここで詳細な記載はしませんが、当該層(XY平面)の中では架構が変形しないことが肝要で、吹き抜けがある部分の節点等を剛床に含めてしまうことは、適切ではありません。
RESP-Dの「剛床」とは、同一層に存在する節点同士の「拘束関係」です。同一の剛床に含めた節点同士は、その層の存在する同一平面上のX方向並進・Y方向並進・Z軸周り回転(x, y, θz)が互いに拘束されます。「剛体」との違いは後述しますが、(x, y, θz)以外の自由度(X軸周りの回転やY軸周りの回転、Z方向の並進)は拘束されていないことが、剛体との違いの肝です。
剛床にすると自由度が減って計算負荷が減らせる
先に記述したとおり、剛床にグルーピングされた節点の面内の自由度(x, y, θz)は拘束されるので、剛床を代表する節点を1つ生み出して、その応答を計算すれば、グループに属する節点の変位は、剛床の応答から計算することができます。
上記により、自由度を大幅に減らすことができます。例えば、同一層に10個の節点があったとすると、1節点あたり(ix, iy, iz, iθx, iθy, iθz)の6自由度あるので、剛床でない場合にはこの層に関して60の自由度が存在していることになります。この10個の節点を剛床として拘束すると、連立方程式は、剛床代表節点(後述)の(Gx, Gy, Gθz):3自由度、拘束されていない (iz, iθx, iθy): 3自由度×10節点の30自由度となり、この層の自由度が 60 ー 30 + 3 = 33(27自由度 減)となります。
RESP-D は超高層建築物の設計にもよく使用されますが、剛床仮定により解析時間が大幅に短縮されています。
剛床代表節点とは
先程の例で言えば、10個あった節点を代表させて「剛床代表節点」をつくります。剛床代表節点は、剛床に含まれる節点の「慣性力重心」です。X方向の並進、Y方向の並進、Z軸周り回転に対して、所属する全ての節点の情報を使って以下で代表させます。
並進慣性重量: ∑ iW
回転慣性重量: ∑ iW・ir²
ここで、iWは各節点が持つ重量、irは剛床代表節点と当該節点の距離(腕の長さ)
剛床代表節点に対する計算が終われば、同一面内の任意の位置の節点の応答を、図のような幾何学的関係から計算することができます。

ix = Gx - iry · tan(Gθz) ≒ Gx - iry · Gθz … ①
iy = Gy + irx · tan(Gθz) ≒ Gy + irx · Gθz … ②
ここで、irx, iryは剛床代表節点と当該節点の間の距離のX, Y成分です。微小変形理論の場合、tan(θ) ≒ θと見なします。
剛床でも梁は曲がる?
剛床の説明をしようとして、つい”剛体”と口走ってしまうときがあるのですが、剛床と剛体は異なります。先に述べたように、同一面(層)内の変形を拘束しているので、それ以外の自由度は各節点ごとに自由です。先の例に示した通り、拘束されていない (z, θx, θy) の自由度は剛床に拘束された自由度(x, y, θz)とは別々に求まります。

所属するチームの先輩が言っていた身近なものへの例えがイメージしやすかったので記載しておきます。剛床は「下敷き」をイメージするとわかりやすいです。下敷きの面内にある節点の位置は、人間の力では(ほとんど)変わりませんが、面外方向には自由に、拘束されずに動きます。剛体は、無限に固い板のようなものをイメージしていただければその違いがわかると思います。
RESP-D で剛床解除をする際に覚えておきたい点
RESP-Dで剛床解除する際の留意点が1つあります。それは、各”層の応答”を計算するためには、各層に最低1つは剛床に所属している節点を残しておく必要があるということです。吹き抜けの周りなど、層の一部の節点を剛床解除する分には問題になりませんが、層の全ての節点を剛床解除してしまうと層としての応答が計算されません。
RESP-D で出力される層間変形角等の応答は、各階の軸力重心に着目して計算をしています。軸力重心は質量を持たない節点(地震力などが作用しない)節点です。剛床代表節点が存在する場合には、軸力重心は他の節点と同じように剛床代表節点に拘束され、剛床代表節点に地震力が加わることにより並進・回転変位が生じます。しかし、層の全ての節点を剛床解除した場合には、剛床代表節点がそもそも作られないため、各節点に変位が生じても、軸力重心節点は外力から取り残されてしまい、結果として層間変形が生じません。

使い方のポイントとしては、軸力重心に近い1点を剛床(1点しかない剛床グループとして成立。この1点がそのまま剛床代表節点)として設定します。これにより、当該節点の変位に軸力重心が拘束されて、層間変形が計算されます。なお、剛床代表節点と軸力重心の位置が離れている場合には、先の①②式の計算の際に、(腕の長さ)×(ねじれ)の応答が大きくなり、過剰な変形応答が生じてしまうため、軸力重心に近接した節点を剛床として設定することをお勧めします。
おわりに
剛床に関連して、剛床を設定した時にどのような処理が行われているのか、使用上の留意点等をまとめました。ぜひ、剛床の設定・解除をする際には、そのような計算処理になるか意識しながらご利用ください。