静的荷重漸増解析でせん断破壊による耐力劣化を考慮する

近年のRC建物は、柱梁部材がせん断破壊(脆性破壊)しないような設計となりますが、新耐震基準以前の建物では大地震によって部材が脆性破壊するような損傷事例が数多く報告されています。そのような建物を耐震補強する場合、実際の建物の性能を把握するためにはそれらの脆性破壊部材の挙動をできるだけ精緻にモデル化することが重要です。

しかしながら、従来行われるような静的荷重漸増解析では、荷重を漸増させるため層として耐力が低下するような解析モデルを解くことができません。

一方、変位漸増解析であれば解ける可能性はありますが、従来の日本の設計法は荷重分布を決定して載荷するため、変位分布を決めろと言われても多くの人は迷ってしまいます。

そこで考え出されたのが「段階的耐力喪失解析」という方法です。

 

段階的耐力喪失解析とは

段階的耐力喪失解析とは、以下のような計算です(全体フローは下図①参照)。

  • 静的荷重漸増解析を行い、各ステップごとにせん断破壊部材が耐力喪失変形角に達したかどうかをチェックする。
  • 耐力喪失変形角に達した部材が発生した場合、解析をストップして当該部材を両端ピンとしたモデルを作成し、再度0ステップから解析を開始する。その際、耐力喪失部材以外の剛性変更が発生している部材は、再載荷直前の応力に対する割線剛性を初期剛性とするような復元力特性に補正する(下図②参照)。これにより、再載荷を行った場合でも耐力喪失部材周辺の応力集中による損傷が考慮され、動的な繰り返し載荷と近い状況が再現できる。
  • 最大層間変形角が指定の値に達するまで繰り返し、得られたQ-δ曲線の包絡線が耐力喪失を考慮したQ-δ曲線とする(下図③参照)。

①全体フロー

②再載荷発生時の部材復元力特性

 

③せん断耐力喪失発生時のモデル変更

この計算方法には以下のようなメリットがあります。

  • 計算が難しい負勾配の解析を行わずに計算でき、荷重分布として外力を与えることができる。
  • 耐力を喪失させずに解析した場合には考慮できない応力の分配が考慮できる。

 

試解析

ためしに、以下のような二次壁を有するラーメン架構を例題として解析します。

赤の部分が方立壁となります。この部分は、大地震時にはせん断破壊を生じ、大きな応答に達する前に耐力および剛性が喪失することが予想されます。ただし、応答が小さい状況では比較的大きい剛性を有していることも考えられます。そのため判断としては、以下の二つが考えられます。

①方立壁を柱としてモデル化して剛性を考慮する

②方立壁は早期に破壊するものとしてモデル化しない

ただし、従来の静的荷重漸増解析では①を選択した場合に方立壁が大きな応答の時にもせん断力を負担し続けてしまうという問題がありました。段階的耐力喪失解析を行えば、①のようにモデル化しつつ、大きな変形領域では耐力を喪失させてせん断力を負担させないことが可能です。

試しに、開口としてモデル化した場合と方立壁を柱としてモデル化した場合について検討を行いました。なお、単純に開口としてモデル化した場合には開口を包絡開口として認識するため、柱脚部の剛域および危険断面位置が壁柱モデルと比較して過小評価となります。そこで、開口モデルで剛域および危険断面位置のみを補正したモデルも解析しました。

 

 

 

結果のQ-δ曲線を示します。壁柱モデルは小さい変形領域で大きなせん断力を分担したのち、3回にわたって耐力喪失を生じました。最終的な保有耐力が開口モデルよりも小さくなっている点も注目すべき点です。

 

 

壁柱モデルで最終耐力が小さくなった理由を確認するため、ヒンジ図を確認します。

最終的な保有耐力が壁柱モデルで小さくなっているのは、右柱も最終的に耐力喪失を生じているためであるとわかりました。これは、右柱の長期軸力負担が開口モデルと比べて小さいことにより、せん断耐力が低下したことが原因と考えられます。

 

以上の結果から、今回のようなモデルの場合には、方立壁を柱としてモデル化し、段階的耐力喪失解析を行えば小さな変形領域における方立壁の剛性の影響も考慮でき、大きな変形領域において方立壁が耐力喪失した後の挙動も追跡できることがわかります。加えて、始めから方立壁を取り除いている場合と比較すると、メカニズムが変わることにより大きな変形領域における最大耐力も変化していることが確認できました。つまり、今回の結果では、「方立壁は早期に破壊するのだから、大きな変形領域を考える場合には始めから取り除いておけば妥当な評価になるはずである」という予測は、適切でないということになります。このようなケースでは、段階的耐力喪失解析が有用であるといえます。

まとめ

  • 段階的耐力喪失解析を行えば、脆性破壊部材の耐力劣化を考慮した静的荷重漸増解析が行える。
  • 段階的耐力喪失解析を行った場合、始めから脆性破壊部材を除去した解析と異なる傾向を示すことがある。

なお、RESP-Dではこの段階的耐力喪失解析が2つの設定を行うだけで計算できます。

  • 静的荷重増分解析条件で「段階的耐力喪失解析を行う」にチェックを入れる
  • 部材復元力特性条件でせん断非線形を「降伏後耐力低下するものとして考慮する」にする

ぜひお試しください。

静的荷重増分解析条件の設定

 

部材復元力特性条件

 

 

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